山手線目黒駅、目黒線目黒駅から各徒歩6分

目黒総合法律事務所

山手線目黒駅、目黒線目黒駅から各徒歩6分

暮らしの中のお困りごと、お気軽にご相談下さい

03-5719-3735

平日9時半~17時半

24時間受付 お問い合わせフォームはこちら

犬の保護と飼い主の所有権との関係

保護の必要性
多頭飼育崩壊等により虐待ともいえる状況下にある犬については、①飼い主から引き離され、②新たな飼い主を見付けるのが望ましいことがあるのではないでしょうか。
ただ、そうなるためには、飼い主の所有権との関係でハードルが存在します。

立法上の問題
動物も「物」であることに変わりはないとされているので、ペットは飼い主の所有物という位置付けになります。
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有します(民法206条)。
所有権については法律で制限をすることができますが(憲法29条2項参照)、虐待ともいえる状況下にある犬について、飼い主による飼育を一時的に停止したり、飼い主から所有権を強制的に取得する法律はありません。
したがって、新たな立法がない限り、飼い主の所有権との関係があるので、飼い主から犬を引き離すことはたやすいことではありません。
立法による解決が必要なのかもしれません。

法適用上の問題
現行法の下でも裁判所による飼い主の所有権の制限が一部は考えられます。
飼い主の所有権に基づく権利行使を権利濫用(民法1条3項)であるとして退けるというものです。
例えば、犬を虐待・遺棄したような飼い主が、保護した人に対し返還請求をするような場合が考えられます。
所有権者は、権原なくその物を所持する人に対して、所有権に基づく返還請求をすることができるとされていますが、場合によっては、その権利行使を権利濫用として認めないという構成です。

置き去りにされた犬の飼い主が、保護した人に返還請求をした例があります(後掲東京地判平成29年10月5日)。インターネット上ではめぐちゃん事件と呼ばれているようです。
置き去り行為自体をした人は飼い主の交際相手であり、裁判時には交際は解消されていたようで、裁判所は、所有者の一連の行為が特に悪性が強いものではなく、所有者に犬が引き渡されることにより「再び犬が過酷な状況に置かれる危険性があるとはいえない」として、所有権に基づく引渡請求は権利濫用ではないとして、引き渡しを認めました。
判決においては、現行法の枠組みの中で、裁判所が所有者の権利と愛護動物の保護との調整を図ろうとする姿勢は読みとれるものです。ただ、所有者により犬が過酷な状況に置かれるか否かを問題にするのではなく、端的に、どちらが飼育することが犬にとって望ましいかという観点があってもよかったのではないかと思うところです。

お金の問題
保護された犬に新たな飼い主が見つかればよいのですが、見つからなければ誰が飼育をするのかという問題が生じます。
この点、行政が税金で犬を飼育するということは基本的にはありません。
したがって、新たな飼い主が見つからない限り、寄付金で運用されている動物愛護団体が引き取らないのであれば、犬はいずれは殺処分されることになってしまうのでしょう。犬を保護した後の体制整備も重要になると思われるところです。
(山崎)


【関連条文】
憲法29条
1 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

民法1条
1 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。

民法206条
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

動物愛護法44条
1 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処する。
2 愛護動物に対し、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、又はその健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であつて自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行つた者は、100万円以下の罰金に処する。
3 愛護動物を遺棄した者は、100万円以下の罰金に処する。
4 前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの

(なお、2019年の動物愛護法改正により、殺傷の法定刑が「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」から「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」へと引き上げられ、虐待、遺棄等に対する罪の法定刑が「100万円以下の罰金」から「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」へと引き上げられました。
同改正法は、公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。)

【参考裁判例】
東京地判平成29年10月5日
《事案》
平成15年10月16日、Xが雌のゴールデンレトリバー(以下「甲」という。)を購入。
平成25年6月7日(以下、全て同年を指す。)、Xの同居する交際男性(以下「A」という。)が甲を公園に置き去りにする。甲は同日に公園職員により保護される。
6月9日、Xが甲を引き取る。
6月20日深夜、Aが甲を公園に置き去りにする。
6月21日早朝、Yは、公園で短いリードで柵に繋がれた状態の甲を発見した。甲は口輪をされたままで体温調節もできず、雨で泥まみれになり、もがいたことにより出血していた。Yは、連絡先を書いた紙を残して、甲を連れ帰り飼育を開始する。
6月27日、Yは警察に甲の拾得届を提出する。
6月27日頃、Xは、公園に甲を探しに行った。その後、インターネット上で、Yが甲を保護していることを知ったが、Yに連絡はとらなかった。
9月18日、Xが警察に遺失届を提出。
XはAとの交際を解消。

Xは、甲の引渡し及び慰謝料の支払を求めてYを提訴した。
東京地裁は、慰謝料支払請求は棄却したが、甲の引渡請求は認容した。
報道によれば、Yは控訴したが、東京高裁は東京地裁の判断を支持したとのこと。

《判旨》
所有者による引渡請求の対象が愛護動物である場合には、その対象が命あるものであることに鑑みると、当該動物の占有が所有者から占有者に移転するまでの経緯、当該動物の年齢や体調等、引渡しが当該動物に与える影響その他の事情に照らし、当該動物を引き渡すことが社会通念上著しく不当であると認められる場合には、その引渡請求権の行使は権利濫用として許されないものと解される。

置き去り自体はXがしたものではなく、Xが直接に甲を過酷な状況に置いたわけではないこと、Xは、公園まで甲を探しに行き法令の期間内に遺失届を提出するなど、十分な手立てとはいえないが甲を連れ戻すための行動に出ていたことが認められる。
そうすると、Xによる一連の行為が特に悪性が強いものとまで評価することはできない。
甲は高齢である上、Yの下で長期にわたり飼養されていることからすれば、その占有がYからXに移されると、生活環境の変化等によって甲が一定程度の負担を受けることが懸念されるが、それ以上に、甲の健康等に対して悪影響が生じることを認めるに足りる証拠はない。
むしろ、XとAとの関係は既に解消されており、Xは、甲の引渡しを受けた後は愛情を持って甲を飼育するつもりであり、その用意をしていることを考慮すると、今後、Xの下において、再び甲が過酷な状況に置かれる危険性があるとはいえない。

暮らしの中のお困りごと、お気軽にご相談ください

目黒区の弁護士事務所 平日9時半~17時半

03-5719-3735

03-5719-3735

相談予約はこちら

メール相談、相談予約はこちら 相談予約はこちら >